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14話 ギルドマスターへの直談判

Author: みみっく
last update Last Updated: 2025-06-26 12:00:55

「ギルドマスターは居るのかしら?」

 ミリアが毅然とした口調で受付嬢に話しかけた。その声には、貴族ならではの有無を言わせぬ響きがある。

「はい? まぁ~居りますが、約束をされていなければお会い出来ませんよ。お約束はお有りでしょうか?」

 受付嬢は、ミリアの纏う普通とは違うオーラを感じ取ったのか、俺との対応とは打って変わって、少し戸惑った様子で答えた。

「お手紙を届ける事は出来ますわよね? 急ぎの件だと仰って頂けるかしら」

 ミリアの高圧的な口調に、受付嬢はすっかり圧倒され、素直に従って席を立ち、手紙を届けに行った。その背中は、どこか焦りを帯びているようにも見えた。

 しばらくすると、ギルドマスターなのか、男性職員が慌てて出てきた。彼は受付に並ぶ人達を見回し、後から追うようにして来た受付嬢に誰なのかを聞いているようで、受付嬢が指でこちらを差した。

「き、君達が、この手紙を?」

 ギルドマスターらしき男性は、息を切らしながら問いかけてきた。俺は内容を知らないのでミリアを見た。

「ええ。そうですわよ。それが何か?」

 ミリアは涼しい顔で答える。

「この手紙は、どうやって手に入れたんだ? どういう経緯で書いて頂けたんだ? 本物なのか? 偽物だとしたら重罪だぞ!」

 ギルドマスターは、興奮した様子で矢継ぎ早に質問を投げかける。その顔には、焦りと疑念が入り混じっている。

 ミリアは何の手紙を渡したんだ? 誰からの手紙を渡したんだ? この慌て方は……とても偉い人からの手紙だよな……領主様からの手紙か? だとしたら父親から書いてもらった手紙か。さすが貴族のお嬢様だな……。

「そんなに、まくし立てられましても困りますわ」

 ミリアは眉一つ動かさず、冷静に言い放った。

「平民の君達が頂けるような手紙では無いだろ!」

 ギルドマスターは、まだ疑いの目を向けてくる。

「ですが、本物ですわよ? 蠟封の印と手紙の紙の透かしを見れば分かりますよね?」

 何の話をしているんだ? 話について行けないんだけど……ミリアが、誰か偉い人から手紙を受け取って届けたのかな?

「それは確認した……本物だと鑑定結果が出たが……信じられないだろ。このようなギルドへわざわざ……お手紙を?」

 ギルドマスターは、まだ混乱しているようだ。

「ならば問題ないんじゃないのかしら? 内容も命令ではなくてお願いですし。どうなさるのかしら……ギルドマスターさん?」

 ミリアは冷ややかな声で問い詰める。ギルドマスターは観念したようにため息をついた。

「……はぁ。後々、他のギルドと面倒になるので、あまり許可を出したく無いのだが、大きな援助をして頂いてるので断れないよな……はぁ……。ギルドマスターの権限で販売の許可をする。今から好きに売って良いぞ……後で許可証を発行して受付嬢に届けさせる」

 そう言って、不満そうに部屋に戻って行った。彼の背中には、疲労と諦めが滲んでいる。

 興味津々な受付嬢が目を輝かせてミリアに話しかけた。その目は、好奇心でいっぱいに光っている。

「ねぇねぇ、どうやったのぉ? あの手紙は本物なの? 誰からの手紙だったの?」

「ここのギルドは秘密の厳守が出来ているのかしら?」

 ミリアの問いかけに、受付嬢はハッと我に返り、真面目な顔になった。

「失礼しました。あの……いつも堂々としているギルマスが慌てた様子だったので、つい興味が出て浮かれてました」

「面白半分で首を突っ込んで、知らなくてよいことを知ってしまうと、命を落とすこともあるわ。気をつけなさい」

 ミリアの声は、どこか警告めいている。受付嬢がドキッとした表情になり、俯いてしまった。

「はい。ご忠告有難う御座います」

 明らかに受付嬢の方が歳上で20代前半じゃないのか? なんだろ……ミリアは平民の服装をしていても威圧感というかオーラが違う気がする。さすがお貴族様。

「商売の許可を頂きましたよ。ユウヤ様」

 ミリアは俺と話す時は年相応の喋り方で、オーラも威圧感も無い。その変化に、俺は少しだけホッとする。

「悪いね。商売に付き合わせちゃって」

「ご一緒できて嬉しいですわ」

 ミリアが、にこやかに答えた。

 ——新商品と予期せぬ展開

「あ、そうだ! せっかくだし、1日限定で効果が持続する即効性の美肌化粧水を、お試しとして配ってみようかな……」

 そう思いついた俺は、小さなガラス瓶に詰めた化粧水を10本用意し、お礼の気持ちとして、担当してくれた受付嬢と数人の女性冒険者に手渡した。瓶は透明なガラス製で、中身はほんのりとピンク色に光り、ひと目で特別な品だとわかる。

 効果は肌のダメージ回復と、一時的に若い時の肌に戻る効果を付与しておいた。

 皆、疑わしそうな表情をして、その場で使っていた。化粧水を手に取り、恐る恐る肌に塗布する。即効性があるが、持続するのは明日の今頃には肌の若返り効果は消えるので元の肌に戻ってしまう。

 効果が実感出来れば、やめられなくなる商品になるんじゃない? やめたからって副作用があるわけじゃなく、元通りの肌に戻るだけだし、禁断症状もないし……死ぬわけじゃないけど、若返りは女性にとっては魅力的だよな多分。

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